『死体は語る』上野正彦

異状死体の検死や解剖をして死因を探る監察医が書いた本。
図書館の書庫に入ってた古い本で、腐乱死体のようにボロボロだが内容が面白い。
著者は「死体は気持ち悪くないですか?」と聞かれると「生きている人間の方が恐ろしい」と答えている。生きている人間は痛がったり、すぐ文句を言い、何より死ぬ危険があるので私にとっては生きている人を診るよりは死体の方が遥かに気が楽なのだそうだ。
医療事故や医療訴訟の危険がないのて医学を目指す人たちは監察医を志すのもいいかもしれない。

その中のエピソードをいくつか紹介する。

エピソード①
検死に行くと、たたんだ布団に寄りかかっている母親が、赤ん坊にお乳を飲ませていた。部屋を間違えたかと思い、警察官を見ると、直立したまま凝視してわなわなと震えている。検死の対象はその母親であった。死んだ母親の乳を赤ん坊が無心に吸っていたのだった。

エピソード②
ホテルニュージャパンの火災時に、台湾の女性が死亡した。解剖をすると腹に胎児がいることが分かった。遺族からは、なぜ家族の承諾もなしに解剖をしたのか!死んだ人を再び殺すようなむごいことをするのかと激怒した。説明の論点を変えて、解剖したからこそ、胎児を宿していることが分かり、賠償金を2人分請求できることができる。私たちは、自らを語ることなく死んでいった人々の人権を、このようにして守っているのであると説明すると、怒りは感謝の気持ちに変わったという。

【老人の自殺は独居よりむしろ同居に多い】
家族と同居の老人こそ、最も幸せのように思えたが、必ずしもそうではない。
独りは孤独のように見えるが、自分の城を持ち、訪れる身内や近所の人たちと交際し、それなりに豊かさを持っている。
むしろ同居の中で、家族から理解されず、冷たくされ孤立している方がより孤独を感じ、それが自殺の動機になっている。最も幸せに思えた三世代世帯の老人の自殺が一番多く、動機は病苦といわれていたが、実は、家族が体裁を整えるための方便であることが分かった。

この著者はまだご健在だった。(2021年5月時点で92歳)
興味を引く実話ばかりなので、今度はこの著者の死体関連本を読破していきたい。


スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク